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「主人」について引き続き考えています

前に、「夫」のことを「主人」と呼ぶのはキモい、ということを書いたんですけど、そのときに、「配偶者をさして主人と呼ぶのは主従関係を示しているわけではない」という意見も結構多くて、びっくりしました、「主従」には「主人と奴隷」的な意味と、「メインとサブ」の意味があると思いますが、どっちにしても、配偶者を「主人」と呼ぶときにそう言った意味が全くない、意味が薄れて形骸化した言葉である、とはわたしは思いません。
というのも、世の中には「おい!」とか言って妻を呼びつけて、なにか用事をさせる、という男が一定数いて、そういう振る舞いはあくまでも相手を自分より下だとみなしていなければできないと思うし、それは夫婦という関係に上下関係を持ち込んでいるということで、よくないことなんだけど、でも何十年か前の日本では、妻が夫より下の立場なのは当たり前でした。社会の成熟が進むにつれて、女も同じ人間だし、いくらなんでも女であるからという理由だけで人を下に見て非人道的に扱うのはよくない、という考えが浸透し、その結果、夫婦の関係は対等に近づいてきたけど、でも実際には、そうやって妻を下にみて命令口調で用事を言いつける夫、というのは今でも存在しているわけで、そうした実態がある以上、「主人」という言葉の意味は形骸化しているのだ、とは思えません。家庭にどのような事情があれども、夫婦は対等であるべきで、配偶者を示すために「主人」という言葉を用いることは、夫婦間の上下関係を助長しかねない不適切な表現である、と思います。

(では、「メインとサブ」の意味なら主と従があってもよいのでは?と言う人もいるかもしれませんが、家庭の中で「主たる扶養者」「主たる家事従事者」などが存在するのは当たり前としても、夫婦という関係の中で「どっちかがメインでどっちかがサブ」と言うことはあってはならないわけですから、そう言った意味においても不適切だと思います)

そう思っているわけですが、そしたら、「わたしはリスペクトをこめて夫を主人と呼んでいます」という方がいらっしゃいました。なるほどリスペクトは素晴らしいですね、夫婦はリスペクトし合うべきですね、と思う一方で、「リスペクトの意味で主人と呼ぶ」ということになにか違和感を覚えるので、なんでかな、と考えてみたところ、たしかに「主人」というのは敬称の意味が含まれている感じで(そもそも上下関係を示す言葉ですから当然ですが)、リスペクトっぽい感じがするんだけど、では、夫の立場から「リスペクトをこめて妻をこう呼んでいます」と言うときに適切な呼称ってなんじゃろか?と考えると、それに位置する言葉がないっぽいんですよね。

ふつう、「主人」に対応する妻の呼称は「家内」になるかと思うんですが、「家内」には尊称の意味はないですよね。だって他人が「お宅の家内さんは」とは言わないですから(昔の小説なんかを読んでいると「お家内さん」と書いて「おかみさん」とルビのふってあるものもありますが)。他人の夫については「ご主人」と言いますが、他人の妻については「奥様」というのがふつうだと思います。で、妻は夫をリスペクトして「主人」と呼ぶ。妻をリスペクトする夫はなんと呼ぶのか?
なんとなくですが、現実社会を参考にすると、妻をリスペクトしてそうな人は「奥さん」と呼んでいる気がする。「奥さん」というのは他人の妻のことを言う表現だから、それをあえて自分の妻に適用することで、「わたしは決して妻をないがしろにはしていませんよ」という空気を醸し出そうとしている感じがする。
しかし、では、夫に「奥さん」と呼ばれた妻が「ふむふむ、なるほど、うちの夫はわたしをリスペクトしているのだな」と思うかというと、どうでしょうか。「奥さん」ていう言葉も微妙だから、「別にわたしは奥に引っ込んでるわけじゃねえよ」と思う人もいるのでは……。

というわけで、リスペクト的な側面から見ても、「主人」に対応する対等な妻の呼称がない(そもそも上下関係を示す言葉ですから当然ですが)という点から、「主人」というのは配偶者を示す言葉としては非対称性をはらんでいる、と思われます。だから、少なくとも自分の配偶者を示す言葉としては「夫」「妻」というのが非対称性も特になくて無難だと思うんですけど、でも個人的なインターネットにおける表現でさえ、わざわざ「主人」と書いている人には、よっぽどなにか理由(夫に対するリスペクトを常に表明しておきたい、家父長制が好き、「主人」という言葉について考えたことがない、夫と呼ぶのがイヤなので消去法で主人を選択している、など)があるのかな、と思っています。

ちなみに、前回のときもリンクを貼ったけど、斎藤美奈子の「物は言いよう」という書籍で、「フェミ的に正しい表現」について執拗に書かれており、配偶者の呼び方についても同じようなことが書かれていますので、世の中にはこういう細かいことを死ぬほど気にする人がいる、ということの参考になると思います。しかし、こうしたことを考え、発言することは、考えすぎでも、 言葉狩りでもないと思っているので、この先も同じようなことを執拗に何度も何度も書くと思いますが、よろしくお願いします。

ちなみに、「妻をリスペクトしているので、カミ(神)さんと呼んでいる」という人もいるそうです。うちの夫も外ではわたしのことを「カミさん」と言っているようなので、神だと思っているのかもしれません!


物は言いよう

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