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ママ友いません

七年くらい前、今の会社に入ったばかりの頃に、仕事が大変つらくて、同じようにつらい思いをしている人がインターネットにはいるだろうか、と自分の職種名で検索してみたところ、質問や相談などをする掲示板のトピックがひっかかり、相談者はわたしと同じ職種に就いて半年経つけど仕事が難しく、この先続けていくことが不安、同じ職種の人はこういう事態をどうやって乗り越えましたか、みたいな内容で、わかるわー、と思ったんだけど、それに対するレスの中に「いまは辞めてしまったけど、かつてあの仕事をしていたおかげで、子持ちとなった現在でもママ友関係とか楽勝です!」と書いている人がおり、びっくりしました、ママ友関係ってこのキッツイ仕事で得た経験が生かせる程度に過酷なんですか?!というかそもそもママ友っていないとヤバイんですか?!!!

わたしは子供の頃からクラスとかで友達を作るのがすごく苦手なので、ママ友かあー、わたしにはそもそもママ友ができるのかなあー、無理じゃないかなあー、と思いながら子供を産んでしまったけど、実際、子供を産んで二年半たっても、ママ友一人もいません、ママ友の定義がよくわからないけど、元々の友達ではなくて、子供を介して親しく付き合うママ友、というのは一人もいません。

いま住んでいる地域は、二年前に「待機児童が少なそうだから」という理由で引っ越してきたところなので、わたしや夫にとっての地元ではないから知り合いは一人もいないし、保育園では、送迎の時間が一緒になるのでちょっと挨拶をするような関係のお母さんはいるけど、連絡先を交換するような仲じゃないし、育休中の頃から結構マメに地域の子育て支援センター的なところに通って子供を遊ばせているけど、そこでも友達になるようなお母さんはいないし、だからママ友は一人もいません。

ママ友って、いないと困るんかな?と最初は心配していたのですが、特に毎日家にいて子供と二人きり、とかだと他に話し相手とか、子供の遊び相手がいた方がいいかな、と思うけど、仕事に復帰して保育園に預けるようになると、職場で子供以外の人間と喋る機会があるし、子供は保育園で友達ができるし、ちょっと人に聞いてみたい子育て情報とかも、インターネットで調べれば結構カバーできるし、あとは職場に同じくらいの子供をもつ同僚も何人かいるから、「子供に関する話をしたい欲求」なんかもお昼休みに満たされるし、とりあえず、仕事をしている限りはママ友がいなくても困らないんだなあ、とわかりました。まあ、近所に子供を交えて遊べる友達がいたらすごくいいでしょうけど、できないものは仕方ありません。

ところで、ママ友関係を題材にした書物に桐野夏生の「ハピネス」という小説があります。この小説、連載時の媒体が奥様雑誌のVERYで、帯に「タワマンカースト」などと書かれているため、「なるほどー、タワーマンションに住むママ友同士の確執を描き、最後にはお受験殺人が起こるようなおどろおどろしいお話かあー、ちょう楽しそう」と勝手に推測して読み始めたのですが、全然思ってたんと違いました、お受験殺人は起こりません(ネタバレしてすみません)(このあと本格的にネタバレを含むのでネタバレが嫌な人はここで読むのをやめて「ハピネス」を読んで下さい)。





桐野夏生は「OUT」とかを書いていたイメージから、「女の情念が怖いやつを書く作家」みたいに思われがちなんですが(別に「OUT」自体も女の情念は関係ありませんが)、最近はかなり方向転換してきており、単なるおどろおどろしい話みたいのはあんまりありません。「ハピネス」も売り出し方はおどろおどろしい感じなのですが、実際には、「OUT」みたいにちょうかっこいい女の主人公とかは出て来なくて、怠惰で頭もよくない感じのうだつの上がらないお母さんが主人公です。高級タワーマンション(賃貸)に住む、キラキラした金持ちの世界に憧れているけど本人はうだつの上がらない専業主婦のお母さんが、パッとしない感じの娘(3歳)を育てながら、色々トンチンカンなことをするんですが、このトンチンカンぶりも面白いやつじゃなくて、読んでてイライラ、ハラハラするような、「お前もっとちゃんとしろよ!」と説教したくなるようなやつなんですが、とにかくこのお母さんは自分に自信がないしなんの取り柄もないのに、夫のお金だけに頼って、小金持ちっぽい暮らしがしたい、周りのタワマンママ友もそうしているように、自分の娘も有名名門幼稚園に入れたい、と夢見ているのです、アホか!!!それで別に夫の方もすごい高収入とかではないんですけど、このお母さんはアホなのでそういうのはわからず、高級タワマン(賃貸)に住んでるだけで金持ち気分になっているのです。
そういうお母さんが、同じタワマンに住む本物の金持ちのママ友(全員女児持ち)と毎日子連れで公園やマンション内のラウンジなんかで遊んで、「幼稚園はどこに入れるの?」「近所の公立の幼稚園なんかだと、保育園あがりの子が入ってきたりするから絶対ダメよ」「男の子って乱暴だし、うちは女の子でホントによかったわ」みたいな感じの会話をしながら、ママ友と自分を比べて惨めな気持ちになったりするような暮らしをしているんですけど、色々あって家庭がピンチの局面を迎え、あわや離婚、というところまで行くのですが、離婚しても絶対に娘を手放したくないので一念発起したお母さんは、タワマン外に住むママ友に紹介してもらって、娘を保育園に預けて、パートで働き始めるんですよ。それで自分に自信が持てるようになって、ママ友たちとも遊んでる暇はなくなって、夫も妻を見直して、これから家族三人で頑張ろう!おしまい!


みたいな感じの話なんですよ。

すごいなーと思ったのは、この自己評価が低いのに見栄っ張りの女が直面した問題が、その過程で色々あるとはいえ最終的に「パートで働きに出る」ということで解決する、ということを書いていること。
VERYの読者に向かって「ママ友関係色々あるだろうけど、働くと楽になるよ」って言ってる!!!
リアリティ、という点で言えば、保育園に預ける過程でもう一悶着ありそうですが(だって東京の湾岸地域でそんなに簡単に保育園入れないでしょ。保活をテーマにもう一本小説が書ける)、閉塞的な日常を過ごす悩み多きお母さんに、「パートで働きに出ることで解決する問題もある」と提示してみせたのって、すごくいいのでは?と思いました。

あと、余談ですが、この小説では、登場人物の着ている洋服や持っているものなどについて、ブランドやメーカーなどの固有名詞が結構書かれているんですけど、例えばママ友たちは海外メーカーのベビーカーを使っているけど、主人公はレンタルの国産メーカー品、というような感じで、細かいところで経済格差を表現している(正直、家賃が月に二十万以上するタワーマンションに住んでる人が、ベビーカーをレンタルで済ませているというのはリアリティに欠けると思うけど、彼女の家庭の状況から察するに、自由に使えるお金はあまりないのかも)。
特に心に残っているのは、主人公がおめかしするときにH&MだったかZARAだったかどっちかで買ったというワンピースを着るんですよ。今日はおめかしだ、という時に出てくるのがH&MとかZARAなんですよ。オシャレに関心はあるが、カネはないしセンスもなさそう、という、この主人公の雰囲気が伝わってくる感じで、すごくいいと思いました!これで子供服のブランドも細かく書かれていたらもっとよかったと思います(子供に着せる服にはその家庭の経済状況や親の自意識が如実に現れると思うので)。

わたしは家族について書かれた小説が好きで、色々と読んでいるのですが、この作品は、うだつの上がらないお母さんが、頑張って「普通のお母さん」までステップアップする、そしてバラバラになりそうだった家族が再生する、そういう卑近な感じがいいと思いました。


ママ友との駆け引きに疲れたお母さんにお勧めの小説です!





ハピネス

ハピネス

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